Storm -ただ "あなた" のもとへ-
再び状況を把握すると、ベットから出て水のグラスを取ってきた。
「大丈夫か」
上体を抱きかかえると、背中をさする。
「ゆっくり息をしろ。
ゆっくりだ。
そうだ、いい子だ。
咳をがまんしろ」
フェリックスは自分の手が震えていることに気が付いた。
ぐっと拳をにぎってから深呼吸し、また綺樹の背中をさする。
咳がだいぶ収まったのに綺樹の体を離して、水のグラスを渡した。
綺樹はゆっくりと飲み干した。
「ありがとう」
嗄れた声で空になったグラスを返す。
フェリックスは無言だった。
視線を合わせようとしなかった。
「すまない」
呟くように言うとベットから立ち上がった。
「今夜は自分の寝室に戻る」
綺樹はとっさにフェリックスの手を取った。
「嫌だ。
一緒に寝よう」
フェリックスは綺樹を見下ろした。
必死な眼差しだった。
フェリックスがこの後どういう夜を過ごすのか見通したからかもしれない。
「駄目だ」
フェリックスは手を離すように促した。