Storm -ただ "あなた" のもとへ-
フェリックスはしばらくそのままにさせていたが、腕に手を置くと少し力を込めて離れるように促した。
綺樹のいつも開けているシャツの、第一ボタンが留まっている。
フェリックスはボタンを外して、襟をつまむようにしてめくった。
青黒くなった痕が現れる。
親指ですっとなぞった。
「痛むか?」
「いいや」
ボタンを元通りにはめた。
綺樹を見上げる。
「もうこちらは一息ついた。
ニューヨークに戻るといいだろう。
大分仕事が先行かなくなっているようじゃないか」
綺樹はくちびるを微動させた。
じっとフェリックスを見つめる。
「まだ。
約束の一ヶ月がたっていない」
やっと言うべきことを見つけた。
「構わない」
フェリックスの表情はしっかりとしていた。