Storm -ただ "あなた" のもとへ-
バインダーを小脇に抱え、綺樹がドアに寄りかかっていた。
いつもと違って弱っている空気が漂っていた。
「じゃあ、行くよ。
書類は後で人が取りにくる」
「珍しく・・。
行動が早いな」
驚きを隠すために思わず皮肉った。
綺樹が息を吐くように笑った。
「帰れと言ったのはおまえだろう。
さやかに電話をしたら速攻にジェットが用意された。
じゃあな」
綺樹はフェリックスの返事も待たずに出て行った。
フェリックスは知らず内に体に入っていた力を抜いて、息を吐いた。
これで、いい。
席を立つと、窓辺に寄った。
綺樹を乗せた車が屋敷から遠ざかっていく。
早く去るといい。
この嫉妬と陰謀の塊である屋敷から。
私のように喰われる前に。
その時、村の教会からの鐘の音が響いた。
村の誰かが死んだのだ。
葬送を告げる鳴らし方。
フェリックスは低く笑い声をもらした。
愚かな男は、この先、どうなるのだろうか。