Storm -ただ "あなた" のもとへ-
電話をかけてみたもの、何と言っていいか分からず、綺樹はしばし口をつぐんだ。
「響子、残念だったな」
「ええ」
突き放すような言い方に、綺樹は次の言葉がみつからなかった。
またしばらく沈黙になる。
電話を切られるかと思ったが、そこまではされなかった。
「恨んでいるか?」
「あなたが響子を殺したわけじゃありませんからね、恨んではいませんよ。
あなたを恨んでいるのは、他の男だと思いますが」
意味深な物言いに、誰のことを言っているのかわかるとショックを受けた。
思わずぽつりと言葉が出る。
「なぜ?」
「なぜ」
成介はおうむ返しに繰り返した。
「一度贅沢を経験したら、そうそう落とせませんよ。
それが文無しで外国を放浪ですか?
並大抵の苦労じゃないでしょう。
若気の至りもいい所です。
大体、です。
あなたを手に入れるために西園寺を継いだというのに、あなたもそっちを継ぐことになり、諦めるしかなかった。
それが政略結婚ということで、上手く手に入れたっていうのに、当の相手に“夢”と、そそのかされて、全て放り出した。
文無しで苦労をして、我に返った時、恨まなくてなんです?」
絶句の沈黙が漂う。