Storm -ただ "あなた" のもとへ-
綺樹は再び会場を見回して主催者の伯爵を見つけ出すと、歩を進める。
その途中で突然誰かに二の腕を掴まれて驚いて見上げると、フェリックスの横顔があった。
「屋敷で当主の仕事をしてから帰れよ」
歩きながら見もせずに小声でぴしゃりと言い、にこやかに伯爵へ挨拶をすると、何も言わずに離れていった。
綺樹はその背を見送ると、表情も感情もOFFにしてきびすを返し、出口へ向う。
去っていくのをフェリックスは気付いて目で追っていた。
「誰?」
フェリックスは今日のパートナーに視線を戻した。
「当主だ」
「ああ、噂の。
本当に随分若いわね
遠めで見ると少女だわ」
フェリックスは無言で持っていたワイングラスを振った。
「結構、ご執心ね」
無言に彼女はくつくつと笑う。
「あなたとは付き合いが長いからわかるわよ」
彼女が駆け出しの頃からの付き合いだった。
一時、恋人同士の時もあったが今ではいい友人だった。