Storm -ただ "あなた" のもとへ-

    *


「当主は?」


朝、屋敷に出勤してきたフェリックスはコートを執事に渡しながら聞いた。


「書斎にいらっしゃいます」


フェリックスは手袋を脱ぎかけていた手を止めた。


「随分と早いな」

「いえ、昨晩から引き続きいらっしゃいます」

「ずっと?」


フェリックスは眉を一瞬ひそませてから手袋を渡し、階段を上がった。

自分の書斎に入り綺樹の書斎へと続いているドアへ向かった。

いつもどおりドアは開いていて、綺樹は机に向かっていた。


「おはよう」


声をかけられて、はっとした様子で顔を上げた。

書類に集中していたらしかった。


「ああ、おはよう・・」


綺樹は手で顔をなぜながら窓の方を見た。

まだ重いカーテンが閉じられたままだった。


「朝か」


フェリックスは召使を呼んでカーテンを開けさせ、朝食を持ってくるようにいいつけた。
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