Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「寝ていないのか?」
綺樹はにやりと笑った。
「ああ、お前と違ってね」
暗に含まれた意味を分かっているはずなのに、フェリックスの表情は変わらなかった。
綺樹はそれに肩をすくめると、ふっと息をついて目をしばたいた。
さすがに二日続くと目がつらい。
椅子の背に、ずた袋のように重い体をよりかからせた。
でもフェリックスと変わらないように接せられる。
それが嬉しかった。
体を椅子の背から離すと、書類の山を押しやった。
「ここまでやったぞ。
とりあえず、いいか?
そろそろニューヨークに戻らないといけないんだ」
驚いてフェリックスは、届いたコーヒーを注いでいた手を止めた。
「なんだって?」
今朝初めてフェリックスと目が合った。
相変わらず、透明な壁が見える。
綺樹は一瞬苦笑した。