Storm -ただ "あなた" のもとへ-

屋敷に出勤しているフェリックスは時計を見た。


「そうだな」

「じゃあな、おやすみ」


にべもなく言うと、部屋を出て行こうとした。

ふと何かを思い出したらしい。

ノブを握ったまま、顔をこちらに向けた。


「おまえ。
 マダムの館の電話番号、まだ持っている?」


フェリックスは突然の話題に押し黙った。


「なんだって?」


フェリックスの眉の間が険しくなった。


「私の娘たち、がいるなら、息子もいるだろう」


綺樹はドアから歩み寄ってくると手を伸ばした。

全くの無表情だった。


「男と寝たいんだ。
 よこせ」


フェリックスは無言で綺樹を見つめたまま微動だにしなかった。

綺樹は手を下ろすとガツガツと部屋を歩き回りだした。


「仕事をこなせばこなすほど欲求不満でいらいらする。
 昔みたいに行きずりの相手と寝たら、ウルゴイティもダバリードも困るだろう?
 どんな強請りか問題か起こるかわからないから。
 それなりの相手と寝れば、社会的地位や結婚を狙いだす。
 邪険にも出来ずにうっとおしい。
 そうでない後腐れない相手を探すには手間も時間もかかる。
 一番簡単だ」
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