Storm -ただ "あなた" のもとへ-
*
二度、抱かれたような気がしたが・・・。
一度目の後、ほぼ眠り込んでいたから夢だろう。
奇妙なほどに柔らかい抱き方で、最後の瞬間小さく声を上げて目を一瞬見開いたら、優しくキスされた。
全く、ありえない。
なんとなくボディソープの匂いがした後、フェリックスが耳元で帰る事告げたよ
うな記憶もある。
それは本当か?
綺樹は書類から目を離さず、両肘を机についたまま、拳でこめかみをたたいた。
実際自分のアパルトメントに戻っているのだから、その記憶は正しいかもしれない。
どうせまたここに出勤するのに寝室に残らなかったということは、本当にビジネ
スライクに寝てくれたらしい。
その方がやりやすい。
色々と考えないで済む。
余裕も無い。
綺樹は見終わった書類にサインすると、ばさりと山の上に放り投げた。