Storm -ただ "あなた" のもとへ-
でも。
「そうか?
恩を売るために。
あるいは、私がおまえに疑問を抱くのを欺き、本当の目的を成功させるために、労力かけて元に戻したのでは?」
歩き出したのに部屋を出て行くのかと思ったが、綺樹がサイドボードに向かって
いるのにフェリックスはまた顔を外へ向けた。
ウィスキーの壜とグラスがぶつかって割れそうな音を立てるのに、視線を戻す。
綺樹の両手が震えているのだ。
ウィスキーが岩にあたって砕ける波のようにグラスに注がれていく。
そのなみなみとした量を綺樹は一気に飲みだした。
信じている。
私は、さやかとフェリックスだけは信じているのだ。
人間性を。
その前提だけは揺るがせない。
揺るがせたら、私は終わりだ。
だとすると。
「なるほど」
綺樹は後ろに倒れるようにソファーに座った。