Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「だからあの後、お前との噂が流れたら身の危険を感じなくなったのか。
お前の父親は、私とお前が結婚した後に殺すことにしたんだな」
乾いた声で笑い出す。
酔いが回り始めているようだった。
顔も首筋も薄いピンク色に変わっていくのをフェリックスはじっと眺めていた。
今、抱くと、肌はどの位の熱を帯びているのだろう。
フェリックスは顔を背けた。
綺樹は持っていたグラスに口をつけて、初めてそれが既に空なのに気が付いた。
ローテーブルに置いた、つもりが床に転がっていく。
綺樹は曲線を描いていくのを目で追った。
やっとソファーの足にぶつかって止まった。
拾おうと腰を浮かし、身を屈めて手を伸ばした。
血液と一緒にアルコールが頭に一気に流れ込み目が回る。
グラスを取るために伸ばした手を床について体制を保った。
フェリックスは腕を組んだまま綺樹の様子を見下ろしていた。
身を起こしてソファーに座り直した綺樹は、発作的に笑いだした。