Storm -ただ "あなた" のもとへ-
侮蔑の言葉に綺樹は息を吐くように鼻先で笑った。
怒りではらわたが煮えくり返ったが、言葉を返したら激情的になりそうだった。
今、フェリックスの前でそうなるのは屈辱的だった。
「下がれ。
話はおしまいだ」
綺樹はぴしゃりといった。
その途端、二の腕をすごい力で掴まれた。
バスルームに引きづりこまれ、床に放り出されたと思ったら冷水のシャワーが降ってきた。
「酔いを醒ますんだな」
バスルームのドアが音を立てて閉まる。
アルコールで増加した血流で、割れそうだった頭が楽になってくる。
熱をもって体内を巡る血液が冷やされて、気持ち良かった。
綺樹は閉められたドアを見つめていた。
まあ、人生はそんなもんだ。
フェリックスの今までの行動も、状況を考えれば人としてこんなものだろう。
彼は特段ひどい仕打ちをしたわけじゃない。
関係がギクシャクしてウルゴイティの仕事に差し支えるのは避けたかった。
ダバリードの仕事を辞めなくてはいけなくなるのは嫌だ。
自分の気持ちの持っていきようで、どうともなろう。