Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「でも、知っている通り、フェリックスの奴、とても悪賢いだろ。
 なかなかそういうのを残さないんだよね」

「そうか、残念だ」


綺樹は本当に残念そうに肩を落とした。

「初めて好きになった相手とか。
 振られた相手とか。
 ドジしたこととか。
 その辺りでいいんだけど」

「ああ、そういうのでいいの。
 初恋の相手はエミリアって言って」

「ユーリー」


フェリックスが威圧的に呼んだ。


「今度ね」

ユーリーは小声で囁くとウィンクした。

諦めた綺樹は長椅子に寝そべり、自分の腕を枕にする。


「よかったら、一曲弾いてもらってもいい?」

「もちろん」


柔らかく、ゆっくりした曲。

晴れた日の草原で、暖かい太陽の下にいるような気分だった。

現実の自分を取り巻く環境とは正反対だ。
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