Storm -ただ "あなた" のもとへ-

さて、どこだ。

その場に立ち止まり、顔を上げた。

向こうが見つけたらしい。

オブジェとして置いてある、ベンチの一つから人が立ち上がり、歩いてくる。

時々、下を通る街灯の灯りが、涼の顔をなぞるように照らすのを、綺樹は見つめていた。

間近になると涼の表情が柔らかくなり、微かな笑いが広がった。

綺樹は久しぶりにみる、その表情をただ見とれていた。


「相変わらず働き者だな」


我に返った綺樹は顔をそらし、肩をすくめた。

涼はちょっと伏せられて出来たまつげの影や、顔をそらせた事であらわになった
うなじを見下ろしていた。

沈黙が続くのに綺樹が視線を戻した。

涼と視線がぶつかると、今度は涼が顔をそらせた。


「行くか。
 車で来ている」


綺樹は眉をちょっとひそませ、涼の後を付いていった。

涼は中心から離れた海に面したバーに連れて行った。

ちょっとリゾートに来たような気分になる。

人気なのだろう。

恋人たちばかりだ。

よくご存知で。

綺樹は皮肉っぽく思うと、ひかれた椅子に腰を下ろした。
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