Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「ウィスキーのロック、ダブルで」
隣に座った涼が息を吐くように笑い出した。
「男と一緒に来てする注文とは思えないな」
綺樹は何も言わなかったし、表情も変えなかった。
ただグラスに口をつけた。
「こちらの仕事は慣れた?」
涼は気が付いていた。
綺樹が、自分たちが男女関係だった過去に触れられることも、そうした雰囲気になるのも嫌がっていることを。
「これからだからな」
「そうか」
ではどこまでだったら戻れるんだろうか。
この間の雇用関係か?
それとも男女関係にもなっていなかった、知り合ったばかりのライナの家にいた頃か。
「そうだ。
遅くなったが、腸チフスの時はありがとう。
命拾いしたよ。
あの後のパーティで言いたかったんだけど、言いそびれた」
綺樹の表情が一気に恐怖に変わるのに涼は驚いた。