Storm -ただ "あなた" のもとへ-

グラスを慌ててあおって、追加を頼んでいる。

カウンターに載せていた両手をぎゅっと握り締めた。


「別にたいしたことない。
 おまえには随分助けられたし」


そう言いながら手で口を覆っている。

指が震えている。


「綺樹?」


すうっと息を吸って、綺樹は両手を後ろに隠すようにして涼に体を向けた。


「大丈夫。
 ちょっとトイレに行ってくる」


綺樹はトイレに滑り込むと壁によりかかった。

落ち着け。

蛇口をひねって両手を水に浸す。

大丈夫。

両手はあるし、感覚もある。

見えているし、聞こえている。

黒幕はフェリックスの父親だったのだし。

唾を飲み込んだ。

そうだ。

だからフェリックスとの仲は切れない。

今、こうやって涼と会っていることが知れたら?

綺樹は蛇口の水を慌ててとめた。

帰ろう。
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