Storm -ただ "あなた" のもとへ-

これに合わせてフェリックスと踊ったことがあったっけ。

涼と偽りの夫婦関係を終えたとき。

随分昔の気がする。


「泊まってくか?
 屋敷に戻りたいのなら送っていく」


綺樹はCDデッキから目を離さない。


「このCDは誰の演奏なの?
 コピーしたみたいだけど。
 前から欲しいと思っても見つからない」


フェリックスは答えなかった。

綺樹も重ねて聞かなかった。


「おまえにとって女は消耗品なの?」


何を言い出したやら。

フェリックスはソファーに腰をおろして足を組んだ。


「時と場合と相手による」


綺樹のまつげが少し伏せられる。


「なぜ、私と結婚しないんだ?」


CDが回るのを見つめている。


「結婚しなくとも、これだけ一緒に寝ているんだ。
 子どもを産ませてしまえばいいのに」


フェリックスの方が、いつだって避妊をする。
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