Storm -ただ "あなた" のもとへ-
フェリックスは不敵に笑った。
「病気を移されるのはごめんだ」
怒りに火を点けられると思っていたが、綺樹はちょっと目を見開き、再びフェリックスに顔を向けた。
「ああ、そうなの。
確かに。
症状が無くてもどんな病気を持っているかわからないだろうね」
フェリックスはしまったと思った。
綺樹はもの凄い勝気の時があるのに、時として非常に繊細になる。
「最初の男は」
「やめろ、綺樹」
聞いたこともないフェリックスの強く低い口調に綺樹は口を閉じた。
綺樹の中の傷を自分でえぐらせる積もりではなかった。
男が引っ掛ける対象となった傷を。
「どの時代も、どこの国でも、身持ちの悪い女は遊び相手に過ぎない」
妙に悟った静かな口調で、自分に再確認するように呟く。
フェリックスは意図しない、しかも持って行きたくない展開に肘置きに肘をついて額を支えた。
「今、私が死んだら、ウルゴイティの中は荒れるだけだ。
下手すればおまえはその地位を追われる。
おまえの父親もそれはわかっているだろう。
私が違う誰かと結婚しても、おまえの立場は危うくなる。
子供が生まれればなおさらだ。
殺されるかもしれないな」
フェリックスの目を見た。
不思議そうに少し首を傾げる。