Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「綺樹。
 出かけよう」

「ああ、そうだな」


まだこのままでいたくて、返事をしたが動かなかった。

こういう風にできるのは、今度はいつだろう。


「ほら」


促すように手で押され、涼の体から離れた。

バスルームに行く前に、乱れた髪の向こうに見えた綺樹の表情は、少し憂鬱そうだった。

更に綺樹の表情が止まった。

出かける前にブランチを食べようとテーブルに着くと、皿の代わりに紙が置かれる。


「協定書が交わし終わった」


日本の婚姻届だ。

すでに涼のサインはしてあった。

呆然と紙をみつめる。

手足が萎えてしまって、腕はだらりと体の両脇に垂れていた。


「今日、するのか?」

「今だ」


唾を飲む。


「涼。
 もう少し考えてみたらどうだ?」


見下ろす涼の眼差しが冷たかった。
< 425 / 448 >

この作品をシェア

pagetop