Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「綺樹。
出かけよう」
「ああ、そうだな」
まだこのままでいたくて、返事をしたが動かなかった。
こういう風にできるのは、今度はいつだろう。
「ほら」
促すように手で押され、涼の体から離れた。
バスルームに行く前に、乱れた髪の向こうに見えた綺樹の表情は、少し憂鬱そうだった。
更に綺樹の表情が止まった。
出かける前にブランチを食べようとテーブルに着くと、皿の代わりに紙が置かれる。
「協定書が交わし終わった」
日本の婚姻届だ。
すでに涼のサインはしてあった。
呆然と紙をみつめる。
手足が萎えてしまって、腕はだらりと体の両脇に垂れていた。
「今日、するのか?」
「今だ」
唾を飲む。
「涼。
もう少し考えてみたらどうだ?」
見下ろす涼の眼差しが冷たかった。