Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「それに着替えて、ドレスをよこせ」
「ったく、手荒だよなあ」
綺樹がぶつぶつ言うのが聞こえてから、衣づれの音がしてドアの向こうからドレスが投げつけられた。
拾いあげるとふわりと香る。
束の間、思い出が蘇り、口元に穏やかな微笑が浮かんだ。
時間が経つと、あの思い出さえ甘美になる。
ドアの向こうでシャワーの水音がしはじめた。
今度はお湯が出るから止める必要もないだろう。
涼は染みに取り掛かった。
「取れるの?」
バスルームから出てきながら聞き、涼の手元をのぞきこんだ。
「薄く残りそうだな」
「いいよ、どうせもう着ないだろうし」
涼はちょっと黙った。
「そうだな。
ウルゴイティの当主が同じものを二回は着れないな」
綺樹は肩をすくめた。
涼はばさりとドレスを広げた。
「もったいないな。
よく似合うのに」
水を飲もうとしていた綺樹が顔をむけた。
本気かどうか探るような目だった。
「そう?」
「ああ」
涼はドレスをハンガーにかけ、どこか吊せるところがないか見渡した。
うまいところが無いのに、バスルームのドアを少し開け、ひっかける。