Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「あやな」


かすれた声で呼び、最後、一層深く綺樹の中に身を沈める。

綺樹は薄く目を開け、身を震わせた。

そのまま粉々になってしまえ。

手に入らないのならば。

少し開いた赤いくちびるの間から舌を差込み、押しつぶすように抱きしめる。

凶暴な気持ちになるのは、自分の立ち位置のもどかしさからだ。

時折、気紛れのように現れる綺樹をただ待つしかできない事。

一層、完全に縁が切れたままだったら、心安らかだったろうか。

ただの一読者として、ゴシップを見ているだけの方が。

わからない。

深淵へ、ただ落ちていく気分だった。
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