Storm -ただ "あなた" のもとへ-
綺樹の視線が横へずれた。
「いや。
西園寺でいい生活をしたから、こういう生活は馴染めないかもと思って」
「これはこれで一所懸命に生きているようで面白いんだけどな」
涼が軽く声を上げて笑い言うのに、綺樹はじっと真意を探るように見つめてから視線を手元のコーヒーカップに落とした。
いつだって前向き。
涼はそうだった。
それが西園寺を継いでから、どんどん消えていき、自分との結婚生活の頃は固い表情で息苦しそうだった。
だから必死に事を進めた。
今の涼は生き生きとしている。
自分は間違っていなかったのだ。
確認が取れた。
だから、もう。
会いに来る必要は無い。
客扱いだしな。
黒い液体の表面をみつめる。
「それなら良かった」
綺樹は笑いを作って顔に貼り付け、カップに口をつける。
そしてからりとした雰囲気を身につけた。
「やっぱりインスタントは不味い」
ちょっと鼻にしわをよせてからテーブルに置いて立ち上がると、かけてあるドレスに歩み寄った。