Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「おまえの料理は美味くても、このインスタントコーヒーは駄目だ」
「まったく、人に淹れさせておいて」
涼もカップを置くと、綺樹に近づき背中のファスナーを上げてやった。
「このわがままに付き合えるのはどっちの男かね」
何気なく言うと、綺樹の首筋が強張るように見えた。
「さあね」
人事のように答えて、パーティーバックを取り上げた。
「もう、決めたのか?」
涼はじっと綺樹を観察していた。
綺樹は涼を見もせず、鼻先で笑う。
「おまえに関係ない」
固く低い声だった。
傲然と顔を上げ、ドアへと歩き出した。
涼はドアを押さえ、目の前を横切っていく栗色の頭を見送る。
「気をつけて、帰ろよ」
「心配は無用だ。
いつだって、見張られている」
吐き捨てるように返すと、振り返りもせず階段を上がっていった。