Storm -ただ "あなた" のもとへ-

ふと肌寒さを感じると、視界に靄がかかった。

イギリスでもないのに、霧が出てきたのだろうか。

こんな不安定な天候で今年の小麦の生産量は大丈夫だろうか。

フェリックスに確認しよう。

当の本人が木々の間から走っている姿がぼんやりと見えたのに、綺樹は片手を上げて、挨拶をした。

走っていたフェリックスは森を抜け、まばらになった木立の隙間から屋敷を見た。

ここまで来れば、ほぼ走り終わったのも同じだ。

その時、巨大な屋敷を背後に、緑の絨毯の上を細い人影が歩いているのに気が付いた。

強い太陽の光の下では、限りなく頼りない。

背後の屋敷が押しつぶしそうだった。

なんだってわざわざ外に出て来たのか。

綺樹はフェリックスの姿に気が付いたらしく、片手を少し上げた。

風が吹いているわけではないのに、綺樹の体がふわりと揺れた。

そのまま斜めになっていく。


「綺樹!」


フェリックスは大声をあげ、駆け出した。
< 62 / 448 >

この作品をシェア

pagetop