Storm -ただ "あなた" のもとへ-
ふと肌寒さを感じると、視界に靄がかかった。
イギリスでもないのに、霧が出てきたのだろうか。
こんな不安定な天候で今年の小麦の生産量は大丈夫だろうか。
フェリックスに確認しよう。
当の本人が木々の間から走っている姿がぼんやりと見えたのに、綺樹は片手を上げて、挨拶をした。
走っていたフェリックスは森を抜け、まばらになった木立の隙間から屋敷を見た。
ここまで来れば、ほぼ走り終わったのも同じだ。
その時、巨大な屋敷を背後に、緑の絨毯の上を細い人影が歩いているのに気が付いた。
強い太陽の光の下では、限りなく頼りない。
背後の屋敷が押しつぶしそうだった。
なんだってわざわざ外に出て来たのか。
綺樹はフェリックスの姿に気が付いたらしく、片手を少し上げた。
風が吹いているわけではないのに、綺樹の体がふわりと揺れた。
そのまま斜めになっていく。
「綺樹!」
フェリックスは大声をあげ、駆け出した。