Storm -ただ "あなた" のもとへ-
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単なる貧血だったらしい。
貧血なのは以前からの事なのに、フェリックスはとてつもなく不機嫌な顔をしていた。
夕食にほとんど手をつけなかったのに、眉をひそませただけで何も言わなかったし。
良いことでもあって、ご機嫌なのだろうか。
そうは見えないが、元々わけのわからない男だ。
ベッドの中で読む本を決め、図書室から自室へ戻る途中、正面階段を通り掛かった綺樹はフェリックスが出掛けようとしているのを見付けた。
以前は郊外から屋敷に通っていたが、綺樹が結婚をした時から、屋敷で暮らしていた。
だからこんな時間に、家に帰るのではなくて外出をするということになる。
とても珍しいのに、アーチ型の柱にかかっているカーテンの影に身をひき、しばらく様子をみおろしていた。
メイドたちが集まらず、執事だけが見送っているところをみると、お忍びなのか。
「ふうん」
綺樹はにやりと笑うと、昨晩から滞在しているユーリーの部屋に押しかけた。
「あいつ。
誰にご乱心なの?
こんな時間に忍んで出掛けていくとはまともな相手じゃないだろ?
教えろよ。
散々、人に強制しているんだ、やりかえしてやる」
「ご乱心」
ユーリーはとても楽しそうな綺樹の様子を眺めた。