Storm -ただ "あなた" のもとへ-
綺樹は腕をひいて取り返し、注射針であざだらけの腕をもう片方の手で隠した。
強張った笑みを浮かべる。
「別にやばいことじゃない。
胃炎で食物の代わりに栄養剤を点滴しているだけ。
だから、そんなんで肌はぼろぼろだし、シャワーは浴びてないしで、嫌なんだっ」
涼は涙の溜まっている綺樹の目を見つめた。
「ただの胃炎じゃないだろ」
綺樹は目をしばたいた。
「胃潰瘍」
涼は息を吐いた。
「わかった」
静かに言った。
「わかったから、泣くな」
涙のこぼれた綺樹の頬を両手で包み、乱暴に親指で拭う。
「別に、泣きたいわけじゃない」
綺樹は手の甲で涙を拭った。
「止まらないんだ」
涼は自分の身を横にずらし、タオルケットを綺樹にかけなおした。
「疲れているんだろ。
もうちょっと眠るといい」
大人しく言うとおりに目を閉じる。
それでもしばらくの間、涙をこぼしていたがやがて眠りについたようだった。