Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「綺樹さまの秘書のグレースと申しますが。
いらっしゃいますか?」
涼はドアを細く開け、確かに見覚えのある顔にチェーンを外して開けると、ドアの外に出た。
今でも本当に秘書かはわからない。
「いることは、いる。
まだ寝ている。
だいぶ、疲れているみたいだな」
涼はやや冷たい眼差しで見下ろして、言い直した。
「だいぶ、悪いみたいだな」
本当に、医者から薬をもらっているのか?」
グレースは微笑した。
「私を疑ってらっしゃいますね」
「なにが起きてもおかしくはないからな。
あの世界は。
いつ誰が寝返ろうと」
口の端だけで笑った。
「薬が薬で無いかもしれない。
本人は胃潰瘍と言っているが、そうではないかもしれない。
死んでもらうため。
本当の治療を受けさせないために」
グレースは目元は笑っているが、笑っていない瞳を見つめた。