Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「フェリックスは?」
食べながら、側に控えている使用人を見もせずに問うた。
綺樹(あやな)が日本へ嫁いだ後、当主代理のフェリックスは屋敷に住むようになっていた。
「フェンシングの練習にいかれました」
こんな朝っぱらから。
相変わらず、ストイックな男だ。
以前一度だけ見たことのある、練習していた姿を思いだす。
鍛錬したことによる動きの美しさ。
綺樹(あやな)は朝食を食べ終わると見に行くことにした。
フェンシングの練習の部屋は、屋敷の中を通っていくよりも、中庭を横切った方が早い。
廊下に並んでいるフランス窓の一つから、庭へ降り立った。
幾何学模様に刈り込まれた低い生垣をまたぎ、ベージュ色の砂利を踏みしめ、フレンチ窓を開ける。
ひゅんっとうなり、激しくぶつかりあう音。
居たのはフェリックスだけではなかった。