Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「涼さまの料理だけは良く食べますから。
ずっとというわけではなく、とりあえずお体が回復するまでということで」
涼はぐっと言葉を飲み込んだ。
綺樹は口を開いて閉じて、とまどったような表情でいた。
「いや・・。
それは駄目だ」
俯いてぼそりと言うと、テーブルの上に投げ出してあった自分の持ち物を身につけた。
「離陸時間に間に合う?」
シャツの袖から覗き見える腕の細さ。
さっき掴み上げた時、不安になるほど細くなっていた。
「じゃあ」
いつものように挑むよう微笑して見上げ、口の両端を上げて笑みをつくって出て行った。
グレースは一礼して綺樹の後を追っていく。
ドアが閉まっても涼は身動き一つしなかった。
なんだか首筋の産毛がそそけ立ち、ちりちりした痛みがする。
背にはひやりと冷たさが貼り付いていた。
こういう時の感は外れたことが無い。