Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「勤め先として危険も無い。
まあ、雇い主はわがままだが、酔っ払いや危ない奴を相手にするよりはずっといい」
綺樹の口元に微笑が浮かぶ。
「ただし雇用関係だからな」
これが綺樹の嫌がった理由の一つだろう。
雇用関係の間は寝ない。
金持ちの愛玩物になるのは御免だった。
あるいはヒモというのか。
プライドが許さなかった。
事実が無くたってそういう目で見られそうなのはわかっていた。
だからせめて事実は作らない。
見つめあっていたが綺樹は目を反らせた。
「無理。
私は襲うと思う」
「お願いだ」
その言葉に綺樹は驚いて視線を戻した。
涼の冷静な目が綺樹と視線が合うと、瞬時にいつものからりと晴れ渡った色になる。