Storm -ただ "あなた" のもとへ-
6.主人と召使
*
ウルゴイティのペントハウスは新しく、古かった。
入口には昔ながらのドアマンがいる。
しかし正面玄関のセキュリティーは眼球の毛細血管の照合になっていた。
そしてエレベータは乗るとそれだけで自動的に目的の階に運んでくれる。
エレベータを降りると、目の前には2メートルを越す、彫刻がされた鉄製の両面
扉がそびえている。
その彫刻はフィレンツェにある洗礼堂の扉と同じモチーフだと教えてくれた。
口元に皮肉の笑いを浮かべていたのに、後で調べた。
確かに綺樹にとって、正反対の国への入口なのだろう。
その扉は英数字の暗証番号で開く。
扉の向こうはウルゴイティの世界だ。
独特の重く甘い匂い。
厚い絨毯がひかれた廊下が先に延び、彫像や絵画、壷などの合間に彫刻された木造のドアが並ぶ。