Storm -ただ "あなた" のもとへ-
6.主人と召使

  *

ウルゴイティのペントハウスは新しく、古かった。

入口には昔ながらのドアマンがいる。

しかし正面玄関のセキュリティーは眼球の毛細血管の照合になっていた。

そしてエレベータは乗るとそれだけで自動的に目的の階に運んでくれる。

エレベータを降りると、目の前には2メートルを越す、彫刻がされた鉄製の両面
扉がそびえている。

その彫刻はフィレンツェにある洗礼堂の扉と同じモチーフだと教えてくれた。

口元に皮肉の笑いを浮かべていたのに、後で調べた。

確かに綺樹にとって、正反対の国への入口なのだろう。

その扉は英数字の暗証番号で開く。

扉の向こうはウルゴイティの世界だ。

独特の重く甘い匂い。

厚い絨毯がひかれた廊下が先に延び、彫像や絵画、壷などの合間に彫刻された木造のドアが並ぶ。


< 84 / 448 >

この作品をシェア

pagetop