Storm -ただ "あなた" のもとへ-
寝て来たという気配を感じたことがないので、誰とも寝ていないはず。
でも泊りで出張、と告げられると穏やかじゃない。
出張なのか、単にどこかに泊まっているのか。
あれほど綺樹に雇用関係を守ることを言っておきながら、時折自分の方が危なくなる。
早くこの関係を切り上げた方がいい。
だからといって、また以前のような関係に戻れるのだろうか。
どうだろう。
玄関の扉が開く音がした。
閉じた扉に綺樹はしばらく片方の肩をつけ、よりかかっていた。
俯いていた顔を上げると涼と目が合う。
見られていると思っていなかったらしく、罰が悪そうに笑った。
「ドアが開いているとは思わなかったよ」
綺樹は少しためらってからドレス姿のままでキッチンに入ってきた。
今夜は何とか美術館の25周年記念パーティといっていた。
「随分早かったな」
「うん」
スツールに腰掛けた。