Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「久々にシャンパンを飲んだら、気分が悪くって」
綺樹は作業台に頬杖をついて、調理している姿を眺める。
「何を作るの?」
「てんぷら」
綺樹の口元がゆるんだ。
「いいね」
「食うか?」
「ん」
「じゃあ、油ものだから、ちょっとだけな」
涼の笑っている目元を見て綺樹は胸をつかれて、スライスしていく手元へ視線を落とした。
「まだ、酒は無理だ。
気持ち悪くなって当然だろ。
中身を事前にすり替えてもらっておけよ。
元々、シャンパンは合わないんだから」
「ああ、そうだよね」
なんだか上の空な返事だ。
綺樹は本当のことを言えなかった。