noir papillon
悲しい色のその瞳を目にしたハルは彼女の肩から手を離す。
「…折角見つけた私の居場所を、仲間を、何もかも全て失いたくはないんだ……もう二度と…絶対に……」
呟くミヤビは腕で瞳を隠し視界を閉ざすと語り出す。
彼女の過去を。
自らの過去を。
「…10年前の春、あるギルドとの契約を前日に控えたあの日、私は彼女に会った……災厄の魔女、柴架に……」
その名を耳にしたハルは反応を見せるが何も言わず、只静かに彼女の話に耳を傾ける。
「生死の境をさまよい、目を覚ましたのは5日も後の夜だった。病棟のベッドの中、呑気に眠っている間に全てを失った。愛した家族も弟妹も、大切な仲間も村人も、彼等を護る力も地位も居場所も何もかも全て、こうして何もできず眠っている間に失ったんだ……」
此処で動かず只眠っているのは恐い…
また同じ事を繰り返しそうで…
また大切なものを失いそうで…
消え入りそうな声で呟く彼女の心を表すように、枕元の電灯はチカチカと点滅する。
「…大丈夫……そんな心配いらないさ……」
「……?」
暗い闇の中へと墜ちて行く彼女の耳に届いた優しい声音。
額に感じる温かな感触に腕から瞳を覗かせると、柔らかく微笑むハルと目が合った。