noir papillon
「さぁさ遠慮なさらずに。毒など入っておりませんから」
紅茶片手に女は言うが、誰一人目の前のそれに触れようとはしない。
「気づかい感謝する。しかし申し訳ないが、今はそんな気にはなれない」
「あらあら、殿方のお口には合いませんでしたか」
決して貴女を疑っている訳ではないと付け足す男は出された紅茶に手を翳す。
かき消されたそれを片目に残念そうな表情をする女はコクリと喉を潤した。
2人のやりとりに興味の無いカナメ。
暇そうに髪を弄る彼の目前に現れた一羽の黒蝶。
何処から入ってきたのかその黒蝶はカナメの周りを一周すると彼の肩へと舞い降りた。
「…ハァ…そうかそうかそれは良かった…無事で何よりだ……」
追い払う事もしないカナメは突然何か呟きだし、周りの者達は不審そうな目を向ける。
「先程から目に余るその態度……私達が誰の為に時間を割き此処に集まっていると思っている!?」
「うんと……多分、俺の為…かな?」
怒りを露わに声を荒げる男の問いに、カナメは小首を傾げてみせる。
「貴様、身分の差が理解できていないようだな……」
「ハハッ、それはこっちの台詞だ」
机を叩き立ち上がる男の周りに走る電流。
周りの者達はそれに怯える中、怒りの矛先を向けられる当の本人は両脚を机の上に乗せ堂々と男を見上げていた。