noir papillon
風の少ない穏やかな早朝。
カーテンの隙間から朝日が差し込む中、喫茶店soleilのカウンターにはカナメの姿があった。
その後方、テーブル席にはパソコンを開いたまま眠りにつくリッカの姿。
彼女の肩にはブランケットがかけられる。
「ハァァ…疲れた……」
大きく伸びをしながら首を鳴らすカナメ。
「お疲れ様」
「ん、ありがと」
彼に差し出す煎れたての珈琲。
柔らかく微笑む珠里奈に礼を言うカナメは温かなそれにフッと息を吹きかけた。
「おかえり、2人共」
「…ただいま……」
一口喉に流した彼が声をかけたのは、戻って来たばかりのタクミとシンリ。
2人は互いに暗い顔をしていた。
「何々、そんなしけた顔して。何時にも増して冴えない顔が際立ってるよ?」
「なっ……誰が冴えない顔だ!」
嫌味な言葉を放つカナメに掴みかかるシンリ。
しかし直ぐにその手を離し顔をしかめる。
「…悪い…何の手掛かりも見つからなかった……」
目をそらし低い声で言うが、カナメはそんな彼女に笑いかける。
「いいのいいの。気にするなって」
肩を叩き2人を座らせたカナメはまだ温かな珈琲を口に運ぶ。
「結局の所、ミヤビも助かった事だし……ありがとな、こんな時間まで協力してくれて」
「……」
彼の口から出た思いもしない言葉に驚く2人は口にふくんだ紅茶を吹き出しそうになるのだった。