《短編》春夏秋冬
春
期待と不安で胸いっぱいの、春。
高校に入学して、早1ヶ月。
バスで30分という微妙な距離にある、普通レベルの学校だ。
友達はすぐにできた。
特にこれといったことがあるわけでもないけれど、でも私の高校生活は順風満帆であると言えるだろう。
そんな自分の現状に満足しながら、教室の窓からぼうっと校庭を眺めていた時、
「晴香ー!」
呼ばれて、顔を向ける。
「数学の宿題見せてー」
猫なで声で言う晃(あきら)。
晃と私は家が隣同士で、どういう腐れ縁の果てなのか、同じ高校で、さらにはクラスまで一緒になってしまった。
だけど、入学当初の私には、これほど頼りになる人はいなくて、だからすぐに学校生活にも馴染めたのだと思う。
「数学? いいよ。幼馴染割引で5万にしといてあげる」
「鬼のようなやつだなぁ」
「っていうか、やってない晃が悪いんじゃん。嫌なら美冬に頼みなよ」
私の言葉に、晃は口を尖らせる。
「美冬なら、さっき頼んだよ。そしたら、『10万円ね』って言われたし。お前らはひどいよ」
ぐちぐち言う晃の頭を、教科書で叩く美冬。
「聞こえてんですけどー。誰が『ひどい』って?」
「顔怖ぇよ。そして痛ぇよ。ってことで、慰謝料代わりに数学の宿題を」
「馬鹿じゃないの」
一刀両断。
私は思わず「ぶはっ」と笑ってしまった。