《短編》春夏秋冬
翌朝、私は登校してすぐに、美冬を捕まえた。
昨日の晃との出来事を愚痴ろうと思ったからだ。
「ねぇ、聞いてよ、美冬。晃、ひどいんだよー」
「何? 喧嘩でもしたの? 珍しい」
「喧嘩っていうか」
「うん?」
「昔はよかったねって話してたら、子供みたいなこと言うなとか言われてさ。それに、いきなりナツの話になったりして」
「……ナツの話?」
『ナツ』という名前が出た瞬間、美冬は何か考え込むような顔になった。
一体、どうしたのかと思っていたら、
「ナツかぁ。ナツって何を抱えてるんだろうね」
美冬は宙を仰いでぼそりと呟く。
私の、晃との愚痴はどこへやらで、
「ほら、ナツって自分のこと喋らないじゃん? 人に知られたくないことでもあるのかなぁ、って」
まさか。
ナツってただ単にああいう性格っていうだけじゃん。
特に気にならない私に反し、美冬は物憂い顔。
「少しはあたしらにも話してくれればいいのにね。事と次第によっては、できることもあるかもじゃん?」
「何? そんな大層な話?」
っていうか、私にしてみれば、今はナツの話をしたいわけじゃないのに。
戸惑う私に、美冬はありえないとでも言いたげな顔をして、
「晴香、ほんとにわかんないの? ナツ、いっつも疲れた顔してんのに」
いや、それは夜遊びしてるからでしょ?
と、言おうと思ったけれど、でもあまりにも美冬が真剣な顔をしてるから、言えなかった。