《短編》春夏秋冬
「よく見てるんだね、ナツのこと」

「見てない晴香のがおかしいよ」


何で私が『おかしい』とか言われるの?

何で私が美冬に怒られなきゃならないの?


ナツの所為じゃん、これ。



「美冬。担任が呼んでたぞ」


びくりとした。

振り向いたらナツがいたから。


美冬はナツの呼び掛けに、何も言わずに席を立ち、教室を出て行く。



「なぁ、美冬のやつ、何で怒ってんの?」

「知らないよ」


思わず刺々しい言葉になってしまう。



「つーか、何でお前までキレてんだよ。晃も機嫌悪ぃみたいだし。俺が何かしたか? 当たるなよ」


はっとした。


ナツの言う通りだから。

実際、ナツが何かしたわけでもないのに、なのに私は勝手にナツの所為にして。



「……ごめん」

「いや、いいけどさ。それより100円くれよ」

「え?」

「だから、100円。小銭なくてジュース買えねぇの」


私は八つ当たりしてしまった後ろめたさから、ナツに100円をあげた。


私が珍しく文句を言わなかったからか、ナツは「怖ぇよ」と言う。

人の好意を、なんて言い草だと呆れ返っていたら、



「何かわかんねぇけど、元気出せよ。ほら、偶然にも俺の手の中には100円があることだし、ジュース買ってやっからさぁ」

「それ、私があげたやつなんですけど」

「うはは」


掴めないやつだなぁ、まったく。

でも、別に美冬が言うように、『何かを抱えてる』ようにも見えないけど。

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