《短編》春夏秋冬
「いいもーん。帰って晃に聞くもーん」

「いや、あいつまだ帰ってねぇと思うぞ」

「え?」

「今頃、美冬んちじゃね?」



晃が美冬の家に?



「何か俺、美冬から電話もらって、飼ってる犬だか猫だかがどうこうだから、とりあえず来てくれって言われたんだけど、俺これからバイトあるし?」

「………」

「したら、それ横で聞いてた晃が『俺が代わりに行くわ』とか言って。だからあいつ今、美冬んちにいると思うけど」


寂しさが増長する。

蝉の鳴き声が遠くなる。


私が知らないところで、どうして。



「……何か私だけ家で真面目に勉強してて、馬鹿みたいだね」


自嘲気味に漏れてしまった言葉に、ナツは、



「いいじゃん。そのおかげで俺に会えたわけだし」

「何がいいんだか」

「うわっ、なんてことを言う女なんだ。俺の優しさを返せ」


『優しさ』ねぇ。

同情と紙一重みたいで嫌だ。


シャツから出た腕が、ひりひりする。



「帰る」

「は?」

「『は?』じゃなくて。帰るの、暑いから。ナツだってバイトでしょ。ばいばーい」


日焼けしたくない。

アイスが溶けたら困る。


理由は色々あるけれど、でも一番は、ナツといたくなかったから。



ナツの目に、寂しさが惨めさに変わっていく私の心の内を、覗かれそうで怖かった。

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