《短編》春夏秋冬
どんなに嫌だと言ったところで、どうすることもできなくて。
『協力して』と言われた以上、私が欠席するわけにもいかないし。
着慣れない浴衣を着て、履き慣れない下駄を履いて、集合場所である駅にやってきた、花火大会当日の夕方。
「おっ、浴衣美女発見」
背後からの声に振り向くと、「うはは」と笑って近付いてくる、ナツが。
ナンパかと思った。
「すげぇな。別人じゃん」
「うるさいなぁ。しょうがないでしょ。美冬に言われたんだから」
まじまじと見られる。
街は浴衣の子だらけだというのに、やっぱり気恥ずかしくて。
ナツは時計台で時刻を確認し、あたりを見回して、
「晴香だけ? てっきり、晃と一緒に来るのかと思ってたけど」
「晃のことなんか知らないよ」
そうだ、私は晃のことなんか何も知らないんだ。
昔はあれだけ一緒だったはずなのに、今は、何もわからない。
無意識のうちに、惨めに口を尖らせる私にナツは、
「何? 喧嘩でもしたか? ったく、しょうがねぇなぁ」
「別にそういうのじゃないけど」
「仲よくしろよなぁ。誰かさんが4人で遊びたいとか言うから、人がせっかく予定空けてやったっていうのに、当の本人がそんなんじゃあねぇ」
こっちはナツの提案の所為で悩む羽目になったというのに。
「元気出せよ」
ナツは言うなり、私の髪の毛をくしゃくしゃにした。
美容院でセットしてもらったのに。
っていうより、美冬にこんなところを見られたらと思うと、気が気じゃなくて。