《短編》春夏秋冬
「晴香に祝われるとか、すげぇ複雑なんすけど」


ナツは困ったように頬を掻く。

私を好きだと言ったくせに、その口で、カノジョがいると言ったナツ。


ナツは息を吐き、何か言おうとしたが、私はそれを遮るように、



「大事にしてあげなよ、カノジョ。浮気したら捨てられちゃうよ?」

「なぁ、晴香」

「どんな子? きっと可愛いんだろうなぁ。羨ましいよね、モテる人は」

「晴香」

「ナツはさぁ、だらしないとこあるし? うちのお兄ちゃんもだけど、そういうのを叱ってくれるような人じゃなきゃねぇ」

「晴香!」


腕を掴まれ、びくりとする。

私は唇を噛み締め、



「やめてよ、こういうの。ナツのカノジョに変な勘違いされても困るし。それに私も迷惑だし」


それでも、ナツはぐっと手に力を込める。

腕が、痛くて。



「何で泣いてんの?」


あんたの握力が強すぎるからだよ。

なんて、言い訳さえも口にできない。


目を逸らしたら、瞼の淵に溜まったものが、一筋垂れた。



「ナツー!」


その時、向こうからナツを呼ぶ声がして。

はっとしたナツの手の力が緩んだ瞬間、私はそれを振りほどいた。



「あ……」

「私、もう行くから。ナツも行きなよ」

「……晴香」

「さよなら」


閉じかけていた傷口から化膿して、やがてはそれが体中を蝕んで。

タチの悪いウイルスみたい。

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