《短編》春夏秋冬


積み重なった雑誌の上に、灰皿。

服とエッチなビデオが一緒に隅に重ねられている、ザ・男の部屋、といった感じの室内は、臭かった。



「お前さぁ、少しは片付けろよなぁ。よくこんなんで俺らを呼んだもんだぜ」

「はぁ? お前らが勝手に押し掛けてきたんだろうが。女が来るならもっと小奇麗にもするけど、男じゃなぁ」


いやいや、お兄ちゃん。

お兄ちゃんは誰が家に来ても来なくても、いつもこんな感じじゃない。


顔はいいと評判のお兄ちゃんだけど、中身はただの、ひとりじゃ何もできない人なのだから。



「正晴ってムカつくよなぁ。何でこんなやつが女をとっかえひっかえできて、整理整頓しまくってる俺にはカノジョできねぇんだよ」

「やっぱ女は男の顔しか見てねぇのかなぁ」

「正晴なんて、顔がよくて、バイトもせずに親から金もらいまくってて、おまけにこんな可愛い妹までいて。天はこいつに何物与える気だよ」


騒がしい人たちだなと思った。


それでも私は嬉しかった。

お兄ちゃんといられるし、お兄ちゃんの友達も紹介してもらえたのだから。



「晴香ちゃーん? 兄貴のようにならずに真っ直ぐ育つんだぞー?」

「ははっ」


缶ビールを渡された。

そのまま私たちは乾杯した。



「なぁ、晴香ちゃんって高校何年?」

「一年です」

「マジか。俺らより3つも下かよ。若いねぇ。羨ましいよ」

「ははっ」

「カレシいんの? 俺とかどう?」


茶髪の人の顔がぐいと近くなった。

でも、その顔はお兄ちゃんの手によってどかされた。



「人の妹を口説くな」

「冗談だろー。そんな顔すんなってー」


めんどくさい人だな、と、思ったけれど、もちろん私はそれを顔には出さなかった。

< 46 / 69 >

この作品をシェア

pagetop