《短編》春夏秋冬
積み重なった雑誌の上に、灰皿。
服とエッチなビデオが一緒に隅に重ねられている、ザ・男の部屋、といった感じの室内は、臭かった。
「お前さぁ、少しは片付けろよなぁ。よくこんなんで俺らを呼んだもんだぜ」
「はぁ? お前らが勝手に押し掛けてきたんだろうが。女が来るならもっと小奇麗にもするけど、男じゃなぁ」
いやいや、お兄ちゃん。
お兄ちゃんは誰が家に来ても来なくても、いつもこんな感じじゃない。
顔はいいと評判のお兄ちゃんだけど、中身はただの、ひとりじゃ何もできない人なのだから。
「正晴ってムカつくよなぁ。何でこんなやつが女をとっかえひっかえできて、整理整頓しまくってる俺にはカノジョできねぇんだよ」
「やっぱ女は男の顔しか見てねぇのかなぁ」
「正晴なんて、顔がよくて、バイトもせずに親から金もらいまくってて、おまけにこんな可愛い妹までいて。天はこいつに何物与える気だよ」
騒がしい人たちだなと思った。
それでも私は嬉しかった。
お兄ちゃんといられるし、お兄ちゃんの友達も紹介してもらえたのだから。
「晴香ちゃーん? 兄貴のようにならずに真っ直ぐ育つんだぞー?」
「ははっ」
缶ビールを渡された。
そのまま私たちは乾杯した。
「なぁ、晴香ちゃんって高校何年?」
「一年です」
「マジか。俺らより3つも下かよ。若いねぇ。羨ましいよ」
「ははっ」
「カレシいんの? 俺とかどう?」
茶髪の人の顔がぐいと近くなった。
でも、その顔はお兄ちゃんの手によってどかされた。
「人の妹を口説くな」
「冗談だろー。そんな顔すんなってー」
めんどくさい人だな、と、思ったけれど、もちろん私はそれを顔には出さなかった。