《短編》春夏秋冬


カタッ、と小さな物音に目を覚ましたのは、入学当初の夢を見たからだったのかもしれない。



「ん……」


寝返りを打って目を擦ると、わずかに部屋の中を人影が動いた気がして。

あぁ、オバケってほんとにいるんだな、なんてのん気なことを考えていた時、



「晴香ちゃん」


びくりとした。

驚き過ぎて声も出なかった。


目を凝らすと、あの、お兄ちゃんの友達の茶髪の人だった。



「……トイレはここじゃないですよ」

「知ってるよ。ここは晴香ちゃんの部屋だろ? だから入ってきたんだ」

「……はい?」

「だーかーらぁ、ね? わかるでしょ?」


まだ酒が抜け切っていない上に、寝惚けていた私は、何を言われているのかわからなくて。



ミシッ、と、ベッドが軋む音がした。

煙草の匂いが近くなって初めて、思考がクリアになった。


慌てて声を上げようとしたのに、



「しっ! 静かに! 正晴たちが起きたらやばい!」

「やっ」

「騒ぐなって! 大丈夫、大丈夫!」


でも、反射的に、その辺にあったものを掴んで投げ付けた。

ガシャーン、と、何かが壊れる音がする。



「おわっ、馬鹿! 何やってんだよ! 目覚まし時計なんか投げやがって、怪我したらどうすんだよ!」

「ちょっ、やめて!」

「いいから静かにしろって! あいつらが起きたらどうすんだよ!」


両腕を掴まれ、押さえ付けられて。

恐怖で涙し、震えて声も出なくなった、その時、



「晴香?!」
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