《短編》春夏秋冬
お兄ちゃんにタクシーに乗せられ、一緒に中央病院に向かった。
お兄ちゃんの呼吸はずっと荒いままだった。
いつも家にいないくせに、お兄ちゃんでも家族の心配はするんだな、なんて、この場にそぐわないことを思う。
だって、そうでも考えてなきゃ、不安に押し潰されてしまいそうだったから。
私たちが中央病院に着いた時、お父さんはすでに病室にいた。
「目を覚まさないの」
お母さんの第一声はそれ。
「いくつか骨折してる箇所があってね、それは手術したらしいんだけど。もう麻酔は切れてるはずなのに、って先生が」
「………」
「頭を強く打ったらしいし。脳波に異常はなかったらしいんだけど、でも、目を覚まさないの、お父さん」
ぶつぶつと言うお母さん。
こんなに取り乱したお母さんを、私は初めて見た。
「しっかりしろよ、母さん。落ち付け」
「正晴……」
「事故ってどういうことだよ? まずそれ説明しろよ。おい、聞いてんのかよ」
イラ立ちをぶつけるように、お兄ちゃんはお母さんの肩を揺する。
お母さんは未だおろおろとしたままに、
「あ、あのね、お父さんね、信号待ちで停車してる車に後ろから突っ込んだらしくてね。でね、そのまま後ろにいたトラックにも追突されて、挟まれる形になったみたいでね」
「………」
「わた、私はね、お父さんの会社の方から連絡をもらってね。それでね、急いで来たんだけどね、お父さんね、血がいっぱい出ててね」
言いながら、お母さんは声を震わせて涙した。
家族4人が揃ったのなんて、一体いつ振りのことだろうか。
こんなことになってやっと顔を合わせられるなんて、皮肉なものだ。