《短編》春夏秋冬
「私が、わた、私がいけないの。私がね、『離婚しよう』って言ったのが悪いの」

「は?」

「だってね、お父さんと私はね、もうダメだと思ったの。だから私から切り出したの。なのにね、お父さんね」

「そんな話は今関係ねぇべや!」


お兄ちゃんは、錯乱するお母さんを一喝する。


離婚の話なんて私は知らなかった。

今までさんざん振り回しておいて、またそんな身勝手なことを考えていたのか。



「ねぇ、お父さん、死ぬの?」


問うてみたら、ふたりはひどく驚いた顔で振り向いた。



「縁起でもねぇこと言うなよ、晴香」

「だってそうじゃん! 生きてたって家族がバラバラになるくらいなら、私だって死にたいと思うよ!」


ばちん。

と、頬を張られた。


お兄ちゃんはすごい剣幕だった。



「じゃあ、お前はその『家族』と向き合おうとしたことあったのかよ! 俺が言える台詞じゃねぇかもだけど、お前だって逃げてただろうが!」

「あ……」

「みんなそうだけど、誰かの所為にして、時間作ろうともしないで! 離婚しようがしまいが、こんなの初めから『家族』じゃねぇだろ!」

「……お兄ちゃん」

「今は父さんが目覚ますことだけ考えろよ! それが本当の『家族』じゃねぇのかよ!」


お兄ちゃんの言うことは正論すぎて。

私はへなへなとその場に崩れた。



「頭冷やせや。晴香も、母さんも」


お母さんはよろよろと丸椅子から立ち上がり、「顔洗ってくるね」と、病室を出て行く。


息を吐き、お兄ちゃんは私の前でしゃがんだ。

そしてお兄ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
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