《短編》春夏秋冬
「悪かったよ。今までのこととか、色々と」

「………」

「でもさ、俺もテンパっててさ。怖ぇんだよ、ほんとは。父さんには死んでほしくねぇし。どんなんでも、父さんは父さんだから」


涙がこぼれた。

「ごめんなさい」と私は言った。


そしたらまた、涙が溢れてきた。



その時だった。



「ん……」


私とお兄ちゃんは、弾かれたように顔を向ける。



「……お父さん?」


苦悶の表情を作りながら、お父さんが目を開けた。

お兄ちゃんははっとしたように「看護婦さん呼んでくる!」と慌てて病室を出て行く。


私はまた別の涙が溢れた。



「よかった……」


生きててよかった。

もう、それだけでいい。



「……晴、香……」


お父さんは点滴の管のついた右手を持ち上げる。

それが私の方に伸びてくる。



「……どうしたんだ? なぜ泣いている……?」


ぼそりとお父さんが言った瞬間、ドアが開いて、お兄ちゃんとお母さん、そしてお医者さんと看護師さんが慌ただしく入ってきた。

お兄ちゃんは、座り込む私の肩を、ぽんぽん、と二度叩いた。

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