《短編》春夏秋冬


ひと息ついた時、お母さんは私に「先に帰っていなさい」と言った。

お兄ちゃんも「帰って休め」と私に言う。


私も家族なのに、と、思ったけれど、有無を言わさずタクシーに乗せられ、私はひとり帰宅させられた。



「はぁ……」


真っ暗で誰もいない家。

いつもより広く、そして余計に孤独を感じさせられる。


お父さんが無事でよかったと思う反面、もしも容体が急変したらだとか、いやもう寝るべきだとか、考えているうちに時計の針は頭上を通過していて。


私は無意識に携帯を取り出した。

発信ボタンを押すなり、すぐに呼び出し音が聞こえてくる。



「もしもし?」

「あ、えっと……」


電話をして、どうするつもりだったというのだろう。

今更気付いたところでもう遅くて。



「……晴香?」


電話口の向こうでナツは怪訝そうに私の名前を呼んだ。



「何かあったか?」

「えっと、その……」

「どした?」

「……えっと」

「泣いてたの?」


どきりとした。

私はついに何も言えなくなって、そしたらナツは少しの沈黙の後、



「今どこ?」

「……え?」

「とりあえずそっち行ってやるから。どこにいるの?」


ただ一言、「家」とだけ返した私に、ナツは「すぐ行くから」と言って電話を切った。

私はまた思い出したように涙が溢れてきて。


自分が何で泣いているのかわからなかった。

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