《短編》春夏秋冬


30分後、チャイムが鳴った。

恐る恐るドアを開けたら、息を切らしたナツが立っていた。


よくうちがわかったね、と言おうと思ったけれど、よくよく考えてみれば晃の家の隣なのだから、誰でもわかるはずだ。



「何か、ごめんね。別に大したことじゃないんだけど。あ、でも、大したことじゃないこともないんだけど。ナツに電話なんかしちゃって」

「いいよ。それより、何があった?」


玄関の電気さえつけておらず、水槽からの青白い薄明かりだけに照らされた、私たち。



「あ、あのね、お父さんが事故に遭っちゃって。意識は戻ったんだけど、骨折とかもいっぱいしてるみたいで」

「え?」

「うちってね、いつも家族バラバラだったんだけど。離婚するかもしれなくて」

「………」

「お兄ちゃんにも怒られて。私だけ家に帰らされたんだけど、何か不安で」


私の説明は多分、支離滅裂だったと思う。

それで伝わったのかどうなのか、ナツは「そっか」と言った。


言ってから、ナツはそっと私を抱き締めた。



「大丈夫」


ナツのぬくもりが伝わってくる。

あたたかくて、泣けてきた。



「怖かったよな。わかるよ。俺も親父が血吐いた時、すげぇ怖かったから」

「………」

「この先、家族はどうなるんだろうとか、そういうのも不安だよな。辛いよな」


ナツは私の心の内を代弁するみたいに言う。

そして「わかるから」と。



「泣けばいいよ。それで少しは落ち着くから。俺ずっとこうしててやるし」

「ナツ……」

「頼ればいいんだよ。こんな時くらい。気にするな」
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