《短編》春夏秋冬
私はそこで初めて、わんわんと声を上げて泣いた。

ナツはずっと私の頭を撫でててくれた。


ひとしきり泣いた後、涙を拭ってやっと、ここが玄関であると気がついた。



「ごめん。寒いよね。上がって。私の部屋、二階の左だから」


恥ずかしさから体を離して背を向け、慌てて言った。

けれど、考えてもみれば、カノジョがいる人を私の部屋に呼ぶべきではない。


と、思ったのに、ナツは「おじゃまします」とご丁寧に言って、勝手知ったるように階段をのぼっていく。


こういうところは変わらないやつだ。

飄々としてて、こっちの心配なんて気にも留めないんだから。



私の部屋に入り、ぐるりと中を見回したナツは、



「すっげぇ綺麗に片付いてるね。隣の幼馴染とは大違いだ」


嫌味なのだろうか。

私は適当な笑みでしか返せない。


ナツはベッドに背をつけ、床に座った。



「何か飲む?」

「気にすんなって。座れよ」


まるで私の方が客人みたいだ。



「ほんとにごめんね。こんな真夜中に」

「晴香から、しかもクリスマスに電話なんて、何事かと思ったけど。無事ならそれでいいよ」

「あ……」


カレンダーに目をやり、驚いた。


そういえば、今日はクリスマスだった。

そんなことさえ吹っ飛んでいた自分が嫌になる。



「私そんなこともわからなかったなんて。ナツ、カノジョと一緒だったんじゃないの?」

「一緒だったよ。もう『カノジョ』じゃないけど」

「え?」
< 62 / 69 >

この作品をシェア

pagetop